天文書8

天文書8

 前回は、最新の詳細星図『Great Atlas of the Sky』の紹介でした。
 今回ご紹介する「ヘベリウス星座図絵ー新装版」の原出版は1690年である。今回紹介する星図は地人書館による「新装版刊行に当たって」という巻頭ページによると、『旧ソビエト・ウズベク共和国科学アカデミー所属の天文研究所が、首都タシケント(旧称サマルカンド)の開都2500年を記念して1968年に出版したものである。ーーー中略ーーーなお、本書は1977年に刊行されたが、製作部数が僅少であったことから、十数年間品切れの状態が続き、天文愛好家はもとより、科学史に興味をもつひとから資料としてに有意性を再評価されるに至った。ここに新装版として再び世に送り出すーーー後略ーーー』と紹介されている。

 
  著書名  「ヘベリウス星座図絵」(新装版)
  訳・解説 薮内 清
  発行所  地人書館
  出版年  1993年4月15日 初版第1刷発行
  価 格  8,000円

概要
 本書は縦29㎝×横41㎝のチョコレート色の厚手の表紙になってる。そこに、金色で文字や「りゅう座」の絵が記されている。文字はロシア語のような・・・。
 内容は星図以外は「ウルグ・ベグ」についての記述が中心になっている。
 何故このようになっているか?巻末の解説文を引用する。

 『ここに収録したヘベリウスの星図は、ソビエト連邦の出版物である。ヘベリウスはポーランド生まれの天文学者であり、ソビエトの友邦の学者である。しかしソビエトでこの書物が出版されたのは、それがポーランド学者であるというよりも、この星図と関係の深いウルグ・ベグを顕彰するためであるといってよい。
 ウルグ・ベグはソビエト連邦に所属するウズベク共和国において、15世紀にサマルカンド天文台を建設した天文学者であった。かれはかってこの地方を支配した人物であり、天文学に深い関心をもち、天文学者のパトロンとなった。ヘベリウス星図を出版することによってウルグ・ベグを紹介しようとしたことは、この星図にのせられた原解説に見られる。よってまず、ギリシアのプトレマイオスにはじまり、それを受け継いだイスラム学者の天文学的業績を、星表を中心に述べ、最後にヘベリウスの星図について述べることにしよう。』

構成

 本書は先ず、「ムハマッド・タラガイ・ウルグ・ベグ」(祖父はチムール)についての紹介がなされている。マベランナワルの支配者となったウルグ・ベグは首都サマルカンドで多方面の教育を受け、特に天文学者として名声を獲得した。ウルグ・ベグを中心とした天文学の記述が時間軸に沿ってなされていく。途中のページには様々な図や絵や星表のタイトルが紹介されている。ラテン語、タジク語の星表や、英国での出版のタイトルなどが紹介されている。13ページ目からヘベリウス星座絵図の記述になる。
 星図の構成は次のようになっている。

1 こぐま(小熊)座とその近傍
2 りゅう(龍)座とその近傍
3 ケフェウス座とその近傍
4 おおぐま(大熊)座とその近傍
5 りょうけん(猟犬)座とその近傍
6 うしかい(牛飼)座とその近傍
7 かんむり(冠)座とその近傍
8 ヘルクレス座とその近傍
9 こと(琴)座とその近傍
10 はくちょう(白鳥)座とその近傍
11 こぎつね(小狐)座とその近傍
12 とかげ(蜥蜴)座とその近傍
13 カシオペア座とその近傍
14 きりん(麒麟)座とその近傍
15 へびつかい(蛇遣)座とその近傍
16 ソビエスキのたて(楯)座とその近傍
17 わし(鷲)座とその近傍
18 いるか(海豚)座とその近傍
19 ペガサス座とその近傍
20 アンドロメダ座とその近傍
21 ペルセウス座とその近傍
22 ぎょしゃ(馭者)座とその近傍
23 やまねこ(山猫)座とその近傍
24 こじし(小獅子)座とその近傍
25 さんかく(三角)座とその近傍
26 おひつじ(牡羊)座とその近傍
27 おうし(牡牛)座とその近傍
28 ふたご(双子)座とその近傍
29 かに(蟹)座とその近傍
30 しし(獅子)座とその近傍
31 おとめ(乙女)座よその近傍
32 てんびん(天秤)座とその近傍
33 さそり(蠍座)とその近傍
34 いて(射手)座とその近傍
35 やぎ(山羊)座とその近傍
36 みずがめ(水瓶)座とその近傍
37 うお(魚)座とその近傍
38 くじら(鯨)座とその近傍
39 エリダヌス座とその近傍
40 オリオン座とその近傍
41 いっかくじゅう(一角獣)座とその近傍
42 こいぬ(小犬)座とその近傍
43 うみへび(海蛇)座とその近傍
44 ろくぶんぎ(六分儀)座とその近傍 
45 コップ座とその近傍
46 ケンタウルス座とその近傍
47 おおかみ(狼)座とその近傍
48 さいだん(祭壇)座とその近傍
49 みなみのかんむり(南冠)座とその近傍
50 みなみのうお(南魚)座とその近傍
51 うさぎ(兎)座とその近傍
52 おおいぬ(大犬)座とその近傍
53 アルゴ座とその近傍
54 くじゃく(孔雀)座とその近傍
55 北天図
56 南天図

 この星図の特徴は、天球を外側から見ているということだ。従って、フラムスチードの星図とは左右が逆になっている。
 各星図のメインの星座は周りの星座より輪郭が濃くなっている。星座の表記はラテン語になっている。恒星の等級については、明るい恒星は大きく描かれている。もちろん星座の境界はない。心なしか北極星が現在より極から離れたところに描かれているように感じる。

 モノクロで描かれているキャラクターは全体的に線が濃い。人物が持っている小物は、例えばフラムスチードの絵柄とは一部異なっている。更に「かに座」では、フラムスチード天球図譜ではクラブに対して、ヘベリウス星座図絵ではロブスターが描かれている。

 巻末には、薮内氏による、ヘベリウス星座図絵に関する事項が詳しく述べられている。
 1. プトレマイオス星表
 2. イスラム天文学と天文学者たち
 3. ウルグ・ベグの星表
 4. イスラムの天文器械
 5. ヘベリウスとその星図

 最後に付録としてウルグ・ベグ星表の1018個の恒星が載せられている。

 星座絵図も見ていて面白いが、前後の解説は時代という時間だけでなく、世界への広がりが説明してあり興味深い。

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